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8月9日(金)

「ラマンチャの男」が帰ってきた!!

私のところに・・・しかし、私は「ラマンチャ」に帰れるのだろうか??それが不安で、観るのを躊躇っていたのだけれど、
お友達に、あれこれ解説?御託を並べているうちに、ついに行きたい病、観たい病を抑えることができなくなって、
チケットを取ってしまいました(^^ゞ


え〜、不安の第一は、幸四郎が自分で演出する、ということ!
勿論、ブロードウエイのオリジナルがあり、日本での中村哮夫の演出があり、その間を繋ぐエデイ・ロールの演出・振付があり、
(日本初演ではエディ・ロールの来日があって初めて「ラマンチャ」の全容がつかめたという程の貢献度!!)
で、まあ、そう馬鹿馬鹿しく壊す、ということはできないんですけれど、
完成度の高いものほど、僅かな傷が致命的な破壊を及ぼす、ということは疑いないことでして・・・心配でした。
ことに、最近の「ラマンチャ」は、かなり緩みが出てきていた感じで・・・だから「原点に戻したい」という幸四郎の発言には、
ほー、あなたも感じていらしたのですね(*^^*)という安心感と、でも、だからこそ強力な演出家を、と願うファン心理で・・・

で、まぁ・・・やはり、というか、それにしては、というか・・・

日本でウケるミュージカルというのは、
「屋根の上のバイオリン弾き」・「ミス・サイゴン」・「レ・ミゼラブル」などに、見られることですが
やはり、日本的な要素・・・どこの国でも、あるいは何国人でも「人情は一つだねぇ」という感覚を持たせるものが多いのです。
その中にあって、「ラ・マンチャの男」だけは家族とか男女を超えて人間の行くべき道を求めようという、
ちょっと毛色の変わった―批評家達は「ハイプロウ」という言い方をしますが、私はそういう言い方は好きじゃないので―芝居で、
そこが魅力なのですが、
結論から言えば、失敗とは言いませんが、やはり、疑問点が多いの場事実です。

勿論ストーリーも展開も変わりは無い。
1・全体的に淡彩になった。これは出演者が大幅に若返って、ある意味で植物的な個性の俳優達が増えたこと。
アルドンサのレイプシーンなんて、ホントにさらさらと、これはダンスの振付です♪と言う感じで、
そりゃしつこくやって下品になってはいけませんけど、多少ドキドキさせるような感じが無くちゃ・・・ねぇ(^_^;
それこそ、劇団四季の「コンタクト」の「ブランコ」で、「ここはポルノになってはいけない、しかしエロティックでなくてはいけない」という
そういう気持ちで演じなくちゃ・・・そう「演じる」という気分が薄い、というかないのです(^^)

逆に上条恒彦が、かなり灰汁が抜けてしまって好々爺になってしまったこと。
初演の小沢栄太郎の年を考えれば、まだそんなに灰汁が抜けていい年ではあるまいに・・・と思うし、
もし、これが演出上の要求だとするなら演出の失敗である、と思います。
あの牢名主がしたたかで、さらに、そのしたたかさを超えて、その人間性に訴えなくては、
セルバンテスの気持ちが薄っぺらになってしまう、と思います。
最近の「ラマンチャ」では、時には幸四郎を超えて、上条恒彦が断然よかっただけに残念(;_;)

同時にそれはカラスコ博士の福井貫一にも言えることで、初演の井上孝夫・再演の西沢利行の重厚さとクールさは無理としても、
「才知だけで世を渡っていこうとする自分へのプライド」が薄くて、単にずるい男とだけしか見えないのは?
基本的には、幸四郎に対抗するだけの格がない、ということなんだけどさ!!
そうすると、やはり、ドン・キホーテの気持ちが空回りしてしまうわけですよ。
どうして、今井清隆とか、山口祐一郎とか、あのへんを引っ張ってこなかったんだろうと思う。
カラスコ博士というのは、それくらい大事な役なのですぞ!!
セルバンテスの夢に対抗し、それを打ち砕こうとする、体制側を代表するんですから(^_^;

そういう意味では、ごく一般的な市民を代表する、家政婦・司祭はよかったです(^^)
ちょつと司祭様の歌が、綺麗さが強くて、もう少し温かみのある方がいいな、とは思いましたけど・・・
これは友竹正則のイメージが強い分損なんですよ。だから、これだけできていれば相当いいんですね、きっと。
家政婦は、ちょつとコメディリリーフの雰囲気なので、歴代の中では森公美子が印象に残っているけれど、為所は少ないので難しい。
(その時は、森公美子があんなに若い人だとは思わずに歌と芝居のうまいおばさんだと・・・モリクミ様ゴメンナサイ♪)

そして、サンチョの佐藤輝・・・この人については・・・最近のサンチョは全部この人で、いろいろ不服もあったんですが、
まあ、それなりのサンチョだったんですよ。
出色のサンチョ・小鹿番(当時は敦)から、安宅忍という人に変わって、更に彼になって・・・
ずっと小鹿番〜バンちゃんのサンチョのイメージで来て、凄く良かったんですけど・・・ねぇ(;_;)
今回、これが、幸四郎の演出なのかセリフがフワッと浮くのよね。
幸四郎は、自分でセリフを言うのにわりと浮かせる癖があって、それはそれでいいという時もありますが、
(それが、母なんかには気に入らないらしいし、私もあまり好きではないのです)
他の出演者にやらせるのはいかがなものか?と思います。
今回、一番崩れていたのはサンチョだったかな・・・(^_^;

2.アルドンサ・松たか子への不安!!大いなる不安があったんですよ(^_^;
だいぶ前ですが、彼女のアントニアを観てますからね・・・テレビなどでは凄いオーラがあるけどさ、
アルドンサができるの??って感じで・・・だから観たくなかった、あれだけの役がボロボロにされていたら、と思うと(^_^;
こればかりは、ワタクシ、松たか子様にお詫び申し上げますm(__)m

はっきり言って、女優としてはダイコンだと思います。
歌は止まることはなかったけれど、声量ないし、声質もうわっすべりの感じだし、
セリフは意外によかったけど、ちょっとな、といところもある。
最初から「ドルシネア(今回はダルシネィァ)姫」が身を窶している、という風だし・・・
(セリフがよくないと思うのは皮肉にも「ダルシネイァ」になつてからなんだけど・・・)
でもさ、あの帝劇の舞台を制覇して、松本幸四郎を圧倒して、松たか子のアルドンサを見せてる!!
(演じてる、とは言いません(^_^;でも見せてるのですよ!)
凄い女優だな、と思いました、ハハァm(__)m最敬礼
カーテンコールで客席に向かってスカートをパッとまくっちゃうなんて所作が、チンケにならない!!
蜷川幸雄・斎藤憐・岩松了・三谷幸喜を制覇してきた女優だったんですね・・・と納得♪
ただね、やはり体から舞台の臭いがしないんです。
これはかなり大きな失点になるのじゃないか・・・と。それだけが今回の難癖です。
少なくとも大女優への道を歩み始めている人なんだ、と納得ですm(__)m

ついでに、ここで触れさせてもらえば、松本紀保というのはうまいです!!
ただし主役は張れない・・・そのかわり十年か二十年かしたら、相当にうまい女優〜大女優になるんじゃないかと(^_^;
とにかく、セリフに力がある。歌に説得力がある。今までのアントニアであんなに説得力のあるアントニアは初めて(^_^;
毬谷友子も春風ひとみもやっているんですよ。それでも、為所がないようでインパクト弱かったのです。
今回のアントニアは、「オジサマのため」「オジサマのため」と言いながら、自分のためしか考えていない、
そのくせ、強引に伯父を連れ帰って病気にしてしまった婚約者にはまた腹を立てている、
いろんな感情にウロウロしているエゴイストの姪の姿が等身大で映し出されています。正直ビックリしました。

この姉妹「演技派は二流だ!」という言い方を端無くも実証しています(^_^;

3.幸四郎の自信過剰さ!!
大体、最近の「ラマンチャ」を見ていて、ナニヤラ初心を忘れているんじゃないか、という思いがあって、
で、最初に戻るけど、今回、演出をやろう、というのはちょっと自信過剰なのではないか、という気がしていたのです。
まあ、昨日見た後、今でもそういう思いが残っています。
幸四郎はよかつた。いつも通り・・・そういつも通りです(^_^;
で、プログラムを読むと、さらに、そういう思いが募りました。絶賛の嵐!!
ブロードウエイで演じた時の興奮・感激をまだ自分のものとして喜び称えつづける人々!!
確かに、幸四郎は凄い!でも、凄い人だからこそ誰かが頭を叩く役をしなくてはいけないのではないか?
先代幸四郎(幸四郎の父、白鴎)には、生涯の批評家・藤間正子としいう夫人がいて、
時には夫婦喧嘩にも発展する強烈な演劇論争がなされたそうです。
紀子夫人はいかがでしょうか?

ひとつには、ここまで育てた「ラ・マンチャの男」をただ自分ひとりのものとせず、独立させてはいかがか?と思います。
後、十年は今の声質と声量をボイストレーナーに保証されている、とプログラムに書かれていました。
しかし、そんなことではなく、新しい時代に永遠に生き残る「ラマンチャの男」を確立するために、
かつて、プロードウエイでなされたように「ラマンチャの男ウィーク」を作り、
様々なセルバンテス・様々なアロンソキハーナを見出すのも、日本に馴染みにくい「ラマンチャの男」をあそこまで育てた、
幸四郎に与えられた、また幸四郎にしかなしえない仕事だと思うのです。

それこそ、今井清隆・山口祐一郎・市川染五郎・野村萬斎・・・できるとなれば、石丸幹司も飛び出してくるやもしれません。
意外や、歌舞伎界から中村勘太郎も立候補するかもしれない・・・これは私が見たいんですけどね(^_^;
アルドンサにも、大竹しのぶが立候補するかもしれないし、深津江利や、井川遥・・・
個人的にはちょつと年くっていても安寿ミラで見たいんですけど(^_^;

そして、その人たちを超えて、やはり幸四郎でなければ、となったら、それは素晴らしいことだと思うのですが。
「ラ・マンチャの男」は永遠に夢を追い求めます。
そして、松本幸四郎丈よ、あなたは誰よりも「ラマンチャの男」なのですから・・・





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