9月8日(水)

能「班女(はんじょ)
狂言「文荷(ふみにない)」

――県民の為の能を知る会――

解説 中森晶三
狂言 「文荷」 太郎冠者/野村萬斎
      大名/月崎晴夫 次郎冠者/深田博治
能「浮舟」 浮舟/駒瀬直也
      旅僧/村瀬堤
       里人/山本則秀
       笛   松田弘之
      小鼓 古賀裕巳
      大鼓 柿原光博


結論を先に言うと、お能には文句はないです。
ちょっと気になったことはありますが、素晴らしかった、と思います。
でもなぁ、、、他に気になることがありました(^_^;

当日は、午前中が源氏のセミナーで、途中カレーなどを食べて、少し時間が早いけど、と思っていたところ、
まあ、能楽堂は人だかり!!
自由席はやはり大変なのだ!!
狂言の萬歳がお目当て、と言う人が多いのでしょう。
私は、ギリギリ危ないところを、ナントカ滑りこませていただいたのです♪


で、本日の解説は中森晶三氏です。
いつもは絶好調、と申し上げるところだけれど、ん〜、今回はネェ(^_^;
まず、時間が長すぎました!!30分の解説は長いです。
普段、鎌倉でも30分はしないでしょ(^^ゞ
まあ、長くても面白ければ、それで良いのでしょうが、今日は長い、長すぎる、と感じました。
そう感じたのは私だけではないようで、解説に引き続いて狂言があり、狂言と能の間に15分の休憩がありました。
これは、この休憩はよかった(^^)
トイレ大混雑でした♪
でも、そこで、聞こえましたね・・・解説面白いけど、長すぎるよね、
解説を聞きに来たんじゃないんだけど・・・など。
そうです。そのおかげで、肝心の質疑応答を聞かずに帰らなくちゃならなくなりました(^_^;

それと内容についてです。
「間狂言」についての解説、ということでしたが・・・
まず、能が世界無形文化遺産の第一号に指定された、ということ。
でも、それならば、解説の言葉にもっと気を配らなくてはなりません。
アジアに対しては勿論ですが、日本は単一国語の国、と言う言葉もいかがなものでしょう?
能は「武家の式楽」として伝えられ、
そのために津軽の殿様と島津の殿様が殿中で話が通じた、というのはそのとうりなのでしょうが、
それを以って日本は単一国語の国、と言う言葉もいかがなものでしょう?
それはあくまでも、日本国民の一部であるヤマトンチューの、或いはシャモの、そのまたごく一部の武家の国語です。

極一般の人々は藩を越えて話が通じることを恐れ、或いは幕府の隠密やよそ者が入り込むのを防ぐため、
地域独特の方言で縛られていたのです。
つい、最近(近代)まで、東北人が九州人と話すのには、通訳が要る、関西人がナントカ通訳をした、という笑い話もあります。

勿論「田村」を演目に持つ能楽の中で、それを言うのはナンセンス、とも思いますが、
世界無形文化遺産の指定云々を標榜するのなら、やはり、それを言う方も精神的にもグローバルにならなくてはならないでしょう。
アジアに関するに発言もまたしかりです。

また、もう一点、非常に気になったことは、まあ・・・歌舞伎に関しては見下しても良いのです(^_^;
別に今に始まったことではない!大昔から、能楽はそういい続けて負け戦を凌いできたのですし、
別に一緒の舞台に立つわけではありませんから。

しかし、狂言を見下す発言はいかがなものか?!
これは、萬歳の異常人気に対する反発なのでしょうか?
これから一緒の舞台を踏もうという狂言を見下した発言をして、大げさに口を塞ぐポーズをする。
はっきり言って不愉快でした!!

自分でも「間狂言で話の運びを滑らかにする」と言っておきながら、
「能ではそんなことはできませんから」と言う。
ふうん、そうですか!では能では何が出来るのですか?

私は、狂言はどうも性に合わないと思っているけれど、狂言も、能に劣らない立派な芸術だと思っています。
ただ、非常に能から比較して身分的に差別されている、というのは感じていました。
しかし、こうも、はっきりと、これから一緒に舞台をしよう、という前に、狂言への差別発言が出るとは思いませんでした。

これを楽屋で狂言師諸氏はいかがお聞きになったのでしょうか?

もう一つ、能楽五流の仲が悪い、と言う話、これは内輪話で許されると思う。
観世内だけだって、梅若問題とか、いろいろあるのですから・・・そんなのみんな先刻ご承知で(^^ゞ
ただ、喜多流は、一番後から出来たから、あっちこっちのものを盗んだ、という言い方はいかがなものか?
「芸は盗むもの」というのは、昔から芸事に携わるものとしては心得でしょう。
盗まれる方が誇りであって、盗まれもしないような芸はろくな芸ではありません。
盗まれた芸が本家本元よりよくなったら、そりゃぁ盗んだ方の勝ちです。
盗まれたら、それより良い芸を鍛え上げて、さらに上を行く、というのが本家の誇りのはずですがね(^_^;

それとも、今、梅若六郎を凌駕するか、しないか、というのが喜多流の友枝昭世で、
それがおもしろくない、という意味の発言だったのでしょうかねぇ(^^ゞ

とにかく、今回の中森氏の解説は聞かない方がよかったですね。
こういう解説が続くようなら、能楽界のイメージダウンになるんじゃないのでしょうか。


狂言「文荷(ふみにない)」

というわけで、狂言だったのですが・・・

主人が彼女に出す手紙を届けることになった太郎冠者と次郎冠者が、
どんなことが書いてあるか、とこっそり広げて読んでいるうちにうっかり破ってしまい、
それを主人に見破られて、やるまいぞ、やるまいぞ・・・ということなのですが(^^ゞ

はっきり言って、萬歳はもう狂言は出ないほうが良いと思うなぁ(^^ゞ
↑の中森晶三の発言もあるけれど、確実に狂言は蔑視されてますよ。
アテネのあの大舞台で、あれだけの観客に
世界的な演目で、ギリシアと言うことでなく、ヨーロッパ中で絶賛を受けてきた21世紀を代表する役者ですからね。
もっと大事にして欲しい!!
大事にしてくれるところに行くべきです。
と、同じくらいの意味で、萬歳に狂言は似合わない(^_^;
上手・下手というよりも似合わない!!

オーラはありますが、場違いなオーラですね(^^ゞ
スター野村萬斎がロールスロイスで焼き鳥やに乗り付けた感じですかねぇ(^_^;
萬斎って悲壮感とか悲劇感はあるけどペーソスがないの!!
「笑わせるもの」ってペーソスがないとダメデス!!
それと、やっぱり、はっきり言えば巧くないと思う。
稽古不足か、今回は足捌きが一度で決まらないときが何度かありました(^_^;
こういうの見るのは辛いですm(__)m

今回の相手(次郎冠者)は前回の高野和徳と言う人より地味だけれど巧さは同じくらいじゃないかな・・・。

で、ここで、休憩が入って、凄く助かりました(^^ゞ
気分一新で見られたし、会場の雰囲気もそういう感じがしたのは僻目?



能「班女(はんじょ)」――笹の段――

シテ  中森貫太
   ツレ(またはワキ)  村瀬 純   
ワキツレ村瀬 堤
 アイ  野村萬斎

大鼓  国川 純
    小鼓  鵜澤洋太郎  
   笛  一噌 廉二
 

で、これはよかったです(^^)v
「現在能」で紅入りの狂女物。四番目物、というらしい♪

まず、これは一寸変わったお能らしくて、
本来ワキになる「都の男」というのは「現在はこの役はない」と昭和35年出版の岩波書店の「謡曲集」の解説に書かれています。
ふつうなら、ワキということになる吉田の少将がワキツレということになり、今は「ワキ」と言うことになるらしい。

で、まず、アイの美濃の国の「野上の宿の長」遊女宿の女将が出てきて、事の起こりを説明します。萬歳です。

吉田の少将が都から東下りの折に、この野上の宿に滞在して花子という遊女と契って、互いに扇を取り替えるまでになった。
ところが、少将が東に下った後、花子は扇を眺めては溜息ばかりつくようになって、他の客の席に出なくなった。
いくら言い聞かせても言うことを聞かなくなったので、花子を追い出すことにした、と言うわけです。

そこで、呼ばれて花子登場。
で、実は、ここで橋懸りの花子はそれほど良いとおもわなかったのですが、
本舞台に出て、放心したような表情で(と、言っても、面なんですが、そのように見えるのです!!)、
扇を眺めている時の風情がね・・・なんとも言えずに素晴らしい!!
中森氏は、黙ってすわっている時とか、何かを待つ、という形の時、えもいわれぬ風情をかもし出します(^^)
それが今回は、この前シテでは哀しげに放心しているという風情がよく出ていましたし、
後シテで吉田の少将と再会するところでは、大変に嬉しげな様子がよく出ていました。

これで叱られて、追放を言い渡して、萬歳ならぬ女将は引っ込みます。
残された花子は女将に取り捨てられた扇を拾いつくづくと眺めます。
ここね、↑、ここ・・・いいんですよ\(^^)/
野上の宿を追われて、橋懸りを引っ込む時も、おそらく、その心の中は吉田の少将のことで満ち溢れていて
何が何やらわからぬのであろう、という放心した様子がしみじみと表れています。

でも、アララ、これで前シテ終わり?というあっけない感もあり(^_^;
そうそう立ち姿綺麗なんですが、いつもそんなに背が高いとは思わないのですが、今日はつくづく背が高いと思った、のは
面のせい?でしょうか(^^ゞ
後で伺ったら「小面」だったそうですが、別に「小面」と言っても、そう小さくはないわけで(^_^;
でも、すらり、と綺麗は綺麗で良いか(^_^;

しかして、後ジテ!!
後ジテ登場の前に、いつもの諸国一見の僧、と言う態で、吉田の少将の登場です。
これがあなた、あの「松風」の時、メッチャよかった!と、シテ以上に惚れに惚れた村瀬純さん!!
よかった〜(*^-^*)・・・まあ、外見はどう見ても寒川神社の神主さん、なんだけど、お声がね〜〜♪♪☆☆
従者が二人ついてます。
これがあなた、こないだ、学生の演能会じゃあるまいし、といった村瀬堤・・・ここで理解した、不肖の息子かぁ(^_^;
(一緒に能楽堂の信号渡ったの・・・分かりましたよ、あいつはって(^_^;)
でも、今回は、それほど悪くはなかったです(^^ゞ
後のひとりは、いるだけ。

この後ジテで出る前に囃子方が大変良い!!
大体、今日は、最初から囃子方いいなぁ♪と思っていたんですけど!!
もう、こっからは絶賛だわぁ\(^^)/
事に小鼓の鵜澤洋太郎氏のお声は、ん〜もうしびれちゃう(^^ゞ

でー、後シテ登場♪
これは、もう狂女の片肌脱ぎ(「脱下(ぬきさげ」というらしい(^^ゞ)です。笹を抱えて、あっ!だから「笹の段」か、と納得(^^ゞ
笹は、「お夏笠物狂い」のような大きな笹ではなくて、小型のホントにちっちゃな笹です
・・・大きさ決まっているのでしょうが、個人的には、もうちょっと大きいほうが・・・中森氏のサイズにも合うんじゃないかと(^^ゞ

さっき、鎌倉能舞台の中森氏の日記を覗いてきたら
「後シテの出の一声は囃子方にお願いして「狂女越(きょうじょこし)」と言う手を打って貰いました」とありました。
はあ、そういうんですか(^^)いいですぅ♪

この橋懸りは前シテで出てくる時より数段良い、と思う(^^)

「カケリ」というところでは、笹を抱えて目付柱に行く、まあ、歌舞伎で言えば見栄をキル、というところなのかな(^_^;
そこが素敵です(^^)
「恋すてふ わが名はまだきたちにけり 人知れずこそ 思ひ初めしか」って壬生忠見の歌(拾遺集・百人一首)で出ます。

いつも、この先生は声も良いし謡いも良いのですが、今日は時々生声が入って・・・喉の調子どうだったのかな?

で、まあ、ここで、吉田の少将が、狂女に目を留めて、
あの女の持っている扇を借りて来い、といって二人は再会し、ハッピーエンドになります(^^)v
この、再開する場面がまたよいのだわ(*^-^*)
この時、花子が少将の扇を受け取って見る表情が、同じ面なのに、パッと嬉しい表情に変わるように見える、のですよ(^_^;
あれ、今、顎あげて面をずり上げた?と聞きたいほどでした(^_^;


で、、まあスンゴクよかったのですが、私はセミナーの後、ということもあり、
かなり疲れて舞のところはちょっと意識失ったところもありましたm(__)m
ところが、その鎌倉能舞台の掲示板で、ある方が、
「正直舞がちょっと長くて、まぶたが仲良くなるのをこらえるのが大変な部分もありました」とお書きになっていて、
いやぁ、ここにもいた、いたお仲間が♪と、嬉しくなってしまいました(^_^;
ごめんなさい(^^ゞ

まあ「謡宝生、舞観世」と言うそうですが、やはりお能は謡ですねえ(^^)
謡が好きだからこそ、というところはありますね。

で、本当はこの後、私の好きな「質疑応答」のお時間なんだけど、
中森晶三氏の解説が長くて、もう4時40分です。主婦のシンデレラ・リバティです(;_;)
ホントはお茶会も出たかったんだけど致し方ない(^_^;
というわけで、能楽堂を後にしました・・・次は鎌倉能舞台の「野々宮」です(^^)

中森氏は、8月に無形文化財保持者に認定されて、それに伴って能楽協会会員になったのですが、
それを記念するように(日程の段階では分かっていなかったらしいけど)、初めて芸術祭に参加するそうです。
国立能楽堂で、10月13日に「清経」を舞われるそうですが、まだチケットがあるそうです!!



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